40年愛され続けるロングセラー 『雪肌精』の誕生秘話 ~白がダメなら、“雪”があるじゃないか~
コーセーの歴史は、1946年3月2日に小林孝三郎が設立した小林合名会社(1948年に株式会社小林コーセーを設立)からはじまりました。焼け野原が広がる戦後、「化粧品は必ず世の中を明るくする」と信じ、化粧品の製造販売を開始しました。
化粧品ひとすじに美と向き合い続け、コーセーは2026年に創業80周年を迎えます。この長い歴史の中で大きな転換点と言えるのが、1991年に行ったCI※1導入です。「コーセー」という社名に変更を行い、会社のシンボルとも言えるロゴや企業メッセージも策定。企業の存在意義を再定義しました。そこには並々ならぬ決意があったと聞きます。いったいどのような背景があったのか、エピソードとともに代表取締役社長の小林一俊に話を聞きました。
※1 CIとはコーポレート・アイデンティティの略で、企業理念やビジョンを構築し、特性や独自性を体系立てて整理して提示したものです。 それらを、統一したイメージやデザイン、メッセージとして発信することで、社内外に対して、企業ブランドの価値を高めていくことを目的としています。
小林 創業50周年を迎える丁度5年前にCIを導入しました。私は1986年、創業40周年の時に入社しましたが、その5年後のことです。それまでのコーセーは、業界ではユニークな存在として評価されてきました。特に研究開発の分野では「開発力のコーセー」として業界をリードする多くのヒット商品を生み出しましたし、業界初のデミング賞受賞は優れた品質の裏付けとなりました。一方で、お客さまからは商品の強み以外にイメージ像がないという残念な調査結果も出ていました。さらに言えば、80年代の当社の実績は好調ながらも、百貨店からは「コーセーは市場差別性が不鮮明」という理由で撤退勧告を受けました。百貨店の象徴ともいえる化粧品売り場では、そこでしか買えないプレミア感のあるブランドが求められていました。
時代は技術革新や情報化、国際化、生活者のニーズの高質化・ブランド志向化などが急速に進展、化粧品市場も右肩上がりで成長を遂げてきましたが、バブル崩壊の足音とともに暗雲が立ち込め、私たちを取り巻く環境は大きな変化に直面していました。昭和から平成へ元号が移り、まさに新たな時代を迎えようとしていたのです。
こうした状況を打開し、進化し続けるためには、今一度「コーセーとは何者なのか」という根本的なテーマに向き合う必要がありました。モノづくりに強みのある企業というイメージだけで本当に良いのか、コーセーはどういう企業であるべきか、社会とどう向き合っていくべきか・・・。当社に関わるすべてのステークホルダーと共に、コーセーの使命に挑戦していかなければ、未来はないという危機感がありました。その決意を胸に、創業50周年、そして21世紀に向けて企業のアイデンティティを明確化し、グランドデザインを描くなど、新たなる創業の精神で取り組んでいったのがCI導入だったのです。
CIと一言に言っても、そのやり方・内容は企業によって様々。当社は企業としての存在価値の再定義に始まり、働く人々の処遇制度の見直し、めまぐるしく移り変わっていく環境の変化に合わせた流通システムの再整備、社名の変更や新たな企業ロゴなど、文字通り内から外まで、また頭のてっぺんからつま先まで全てを変えるつもりでCIに取り組みました。わたしも、このCI導入プロジェクトのメンバーの一人でしたが、3年という年月をかけ喧々諤々と議論をし、多くの社員が自分事として関わりながら作り上げていきました。
小林 社名を「小林コーセー」から「コーセー」へ変更するというのは大きな決断でした。これにまつわる象徴的なエピソードがあります。いくつかの社名候補の中から、今後グローバルに展開していくためにも「コーセー」にしようというところまで絞り込みました。最後のステップは、私の祖父であり名付け親の創業者・小林孝三郎会長(当時)にどう提案するかでした。社名から「小林」を取るわけですから、私を含めたCIプロジェクトメンバー全員に相当な覚悟が必要でした。結局はどう説明しようとも同じ、という結論になり恐る恐る相談したところ「私は創業の時からそう思っていた。社名に名前がはいっているのはハイカラではない。長年化粧品業界に携わってきた小林が創業した会社ということを一目で取引先にわかってもらい、その信用から良い原料を仕入れ、どこよりも良い化粧品を作るために、あえて社名に小林と付けたのだ」と語ったのです。メンバー全員で拍子抜けした一方、それだけお客さまに高い品質のものを提供したいという、創業者の志の高さを再認識する機会になりました。
小林 創業者である小林孝三郎(こばやしこうざぶろう)の「孝」=KO、経営理念の根本であり、孝三郎氏の好きな漢字のひとつ「誠実」の「誠」=SEIが由来となっています。
また、宇宙、秩序、調和を意味するギリシャ語「コスモス(KOSMOS)」から派生し、化粧するという意味をもつ「コスメティコス(KOSMETICOS)」の語感もあわせもっています。
小林 コーセーのロゴも、このCI導入時に大きく変更しました。現在のロゴは、世界的に有名なアメリカのグラフィックデザイナー、ソール・バス氏が作成したものです。(2014年にKOSÉの書体のみ、化粧筆の繊細なタッチを想起させる書体に変更)ソール・バス氏は、映画のタイトルデザインで広く知られており、「最も成功したグラフィック・デザイナー」とも呼ばれます。象徴的で余計なものを削ぎ落とした独自のデザインで、多くの大企業のブランディングを成功させた人物です。
ロゴ作成にあたって、まずはコーセーという企業を実地調査するためにソール・バス氏がロサンゼルスから来日。トップとの会談でコーセーの未来への方向性を確認したり、本社ビルや狭山工場、さらに都内の百貨店や化粧品店を訪問したりと、デザインに活かすためのイメージをインプットしてもらいました。
こうしてデザインされたのが現在にも続くシンボルマークです。京都にある龍安寺の石庭からインスピレーションを得たそうで、同じタイミングで制定された企業メッセージ「美しい知恵 人へ、地球へ。」と連動し、地球の色「コーセーブルー」で、KOSÉの「K」がイメージされたデザインです。柔らかな曲線の二つの図形は、片方が「英知」、もう片方が「感性」。「英知」と「感性」という異なった価値を高度に融合して創造しようとする「独自の美の世界観」を象徴しています。完成された美しさと、新しい価値を生み出そうとするダイナミズムも表現し、当社の存在理念である「英知と感性を融合し、独自の美しい価値と文化を創造する」を形作りました。ファンデーションの金皿とかスポンジという人もいますが、実はそうではないのです(笑)。
小林 KOSEだと、英語ではROSEを「ローズ」と読むように、「こーず」と読めてしまいます。全ての人に、正しく「コーセー」と読んでもらうために、アクサンテギュをつけました。他にはKOSAYとする案もありましたが、ソール・バス氏に「英語が4文字並ぶと大概何か意味を持つけれど、KOSEの4文字は良い意味で全く意味を持たない。とてもエキゾチックだ。」と言われ、KOSÉという表記に決めました。
※2 フランス語の「e」の上につく、斜め左下に降りるアクセント記号
小林 コーセーの企業メッセージ「美しい知恵 人へ、地球へ。」もCIで策定されましたが、これは社内から案を募りました。当時のコーセー社員は5100人程度だったのに対し、応募数は延べ10,550通。そのうち20通以上応募した人が49名。一人で108通を出した社員もいました。選考委員会とCI委員によって厳選な審査を実施し、このときに選定された作品をさらにブラッシュアップしたものが、現在の企業メッセージです。
当社は、この当時から、化粧品を通じてお客さまの心の豊かさを叶えるとともに、地球環境の保全など社会課題の解決に寄与していくことにも力を注ぎ、事業活動を展開していました。企業メッセージ「美しい知恵 人へ、地球へ。」には、美の創造企業として、人々のために、そして大切な地球のために、文字通り美しい知恵を出し合い、役立てていこうというコーセーの強い願いが込められています。
これからも、誰もが自信と活力にあふれ、個性を認め合える社会、そして安心して暮らせる、すこやかな地球の未来のために、私たちの“美しい知恵”を尽くし、貢献したいと考えています。