ツヤと色持ちを両立した“粘膜色”リップ 「ヴィセ ネンマクフェイク ルージュ」誕生の裏側 ~新たな発想と追求したブランドらしさ~ 2024.12.18

機能性のみならず、“ネンマク“、“わがままな肉球”などその巧みなワードチョイスも話題となった口紅「ヴィセ ネンマクフェイク ルージュ」。2023年5月の発売から2ヵ月半で累計出荷個数160万本※1を突破し、多くのベストコスメを受賞しました。そのヒットの裏側にはどんな物語があるのか、「ネンマクフェイク ルージュ」の商品企画担当 藤田麻友香さん、研究開発担当 森洋輔さんに話を聞きました。
※1 2024年7月末時点 国内総出荷実績、当社調べ。

■写真左:研究所 メイク製品研究室 森洋輔
1989年生まれ富山県出身。2014年コーセーに入社。入社以来、メイク製品研究室に所属し、ファンデーションやチーク、マスカラなどのメイク製品の研究・技術開発に従事。現在は、口紅やネイルを担当。
■写真右:コンシューマーブランド事業部 商品企画二課 藤田麻友香
1995年生まれ福井県出身。2020年コーセーにキャリア入社。入社以来、コンシューマーブランド事業部で商品企画を担当。ヴィセを担当して今年で4年目。

 

「ヴィセ ネンマクフェイク ルージュ」とは
粘膜のような色・質感を再現した粘膜カラーが、唇の血色を自然に高めて色気のある印象的な唇へみちびくスティックルージュ。

 

追求したのは「ヴィセ」らしい“色気”

まずは、メイクアップブランド『ヴィセ』について教えてください。

藤田 『ヴィセ』は、1994年に誕生し、今年で30周年を迎えた歴史あるブランドです。時代が移り変わる中でも、『ヴィセ』が変わらずに大切にしているのが「トレンド感」です。そして、30周年を機に、新たなブランドコンセプト「Diverse Glamour」を掲げ、“内なる色気”を引き出すメイクアップブランドとして、ジェンダーレス ・ボーダレスな、人それぞれの魅力を提供したいという想いで商品を企画しています。
『ヴィセ』が提案する色気を引き出すメイクの大切な要素として、「ツヤ・血色感」「立体感」「個性」を掲げています。頬が少し赤くなるなど、血色感が表情に現れた時、色っぽさを感じると思いませんか?商品そのものにもこれらのポイントをしっかりと落とし込むことで、“内なる色気”を引き出せるアイテムを開発しています。

「ネンマクフェイク ルージュ」に落とし込んだ、ヴィセらしさは何ですか?

藤田 『ヴィセ』らしい口紅を開発するために、私が着目したのが「粘膜感」です。唇内側の粘膜のような、しっとりとしたツヤとにじみ出る血色感を唇の上に疑似的に作ることができれば、その人らしい色気を引き出すことができるのではと考えました。
商品名にも「ネンマク」と入っていますが、表現が直接的すぎるのではないかという声もあり、決裁が通らず何度も再検討しました。別の商品名も考えましたが、私が『ヴィセ』らしい色気を叶えたいという想いでこだわった「粘膜感」は、どうしてもお客さまへダイレクトに伝えたいポイントでした。なぜ、商品名にも反映する必要があるのか納得してもらうために、粘膜リップがトレンドになっていて市場でも認知が広がってきていること、ターゲットとなる層に商品を届けるためにはSNSでの話題化を狙ったインパクトのある商品名を付ける必要があることなど、根拠を示しながら何度も説明し、この商品名で発売することができました。

ユニークな色名も話題になりましたね。

藤田 色を決める際に作成するコンセプトボード(色のイメージを画像やイラストで視覚化したもの)から着想を得るなどして、チームメンバーと一緒に100個以上の案を出し、かなり時間をかけて検討しました。最初は、肉の焼き加減のように「レア」「ミディアム」といった表現も色名案の1つとして挙がっていました。しかし、「粘膜感」という要素を掛け合わせつつ、『ヴィセ』のもつ上品さや色っぽさが感じられる、心に響く色名にしようということで、最終的に「うさぎの恋人」「わがままな肉球」「海星(ヒトデ)の恋心」「チェリーの自惚れ」「林檎の口づけ」「金魚の恥じらい」という名前に決めました。
人気カラーの「うさぎの恋人」は、“恋をしたうさぎの耳が、甘いささやき声でコーラルピンクに色づく”というイメージから生まれました。

色の名前一つひとつにも、素敵なストーリーがあるんですね。
ツヤと色が持続して、マスクに付着しにくいという機能性も高く評価されました。

 唇に塗ると、透明な層とカラーの層に分かれるという技術を採用しています。カラーの層を厚く覆うように透明な層がコーティングするイメージです。そのおかげで、マスクに色が移りにくくなります。同時に、透明な層はみずみずしく、高いツヤ感も実現しているので、“ツヤがあってマスクに色移りしづらい”というブランドの世界観と機能性を両立させることができました。
実はこの技術、年に2回開催している、研究員が個人の自由な発想で斬新なアイデアを社内に披瀝する「研究アイデア提案会議」をきっかけに商品化されたものなんです。会議でこの技術を見つけた『ヴィセ』の企画開発メンバーから、「新商品にこの技術を使ってみたい」と打診を受けました。

藤田 ちょうどコロナ禍により口紅の売れ行きが低迷していた頃で、なんとかその実績を復活させようと新商品の開発を検討していました。『ヴィセ』らしいツヤ高さを叶えつつ、しっかり色持ちするリップをつくりたいと思っていたので、この技術を知って、「これはすごい。新商品に採用したい。」と研究所に相談しました。

 

楽しむことが、新たな商品の開発にもつながる

社内シナジーを感じるエピソードですね。

藤田 私たち企画担当から、こういったものを発売したいと研究所のメンバーに相談するパターンもあれば、研究員の技術アイデアを元に新商品の開発を進めることもあります。

 「研究アイデア提案会議」で披瀝するものは、研究員が遊び心をもって開発した技術が多いです。「こういったものを入れたら楽しいかも」など、普段イメージにはあっても業務の中で実現するには難しいことを具現化する場として活用しています。そうすることで、多くの人から色々と意見を聞くこともできます。

藤田 技術のサンプル品にはタイトルがついているのですが、結構ユニークなものも多いですよね(笑)。

 効果感や使用感には全く関係しませんが、外観の審美性を出すためにビー玉を入れた化粧品のアイデアを出す人がいたり(笑)。そういう提案もできるのが、「研究アイデア提案会議」です。もちろん、すぐに商品化できるようなアイデアもあります。ひと会議につき、1割強くらいのアイデアが採用されている感覚です。

純粋に化粧品づくりを楽しむことが、お客さまに喜んでもらえる商品の開発につながっている気がします。
新商品や技術開発のインスピレーションは、どこから得ているのですか?

 他社商品の配合成分を見て、珍しいと思う組み合わせがあれば試すこともありますし、マスカラで使われている素材をリップに使ったり、食品など異分野の技術を真似してみたりすることもあります。私自身、実際に食品で使われている技術をもとにして実現させた商品もあります。非常に思い出深いです。

藤田 元々コスメの情報を見るのが好きというのもありますが、市場で人気のアイテムや海外のコスメ情報をチェックすることが多いです。その中で、『ヴィセ』のエッセンスを入れながら、お客さまのニーズを叶えるアイテムを生み出すにはどういう要素が必要か自分の中で色々と考えて企画案を出しています。好きが高じて、仕事以外の時間でもSNSを見ているときに、「これはいいアイデアになりそう。」などと、無意識に考えてしまっています。
新商品の開発は、発売の1年半~2年くらい前から始まるのですが、『ヴィセ』の場合は出荷数量も多いため、容器や原料調達の調整にも時間が必要です。日頃から、スムーズに進行できるように早い段階から関連部署に相談することを心掛けています。

アイテムのコンセプトや色、質感のことだけではなく、容器や原料など、商品の開発には考えるべきことがたくさんありますね

藤田 そうなんです。例えば、容器の仕様をどうしたいかも商品企画が決めていきます。商品開発において、コスト管理も重要なことなので、付属品や容器の色の違いによってコストがどれくらい変わるのかなどを容器設計の担当者へ相談しながら、細かく試算します。見た目やコストだけでなく、品質を保つために、中身と容器の相性なども検討していく必要があるので、コントロールすることが沢山あります。

私たちの想像をはるかに超える苦労の末に、新商品がお客さまの元に届けられているんですね。
「ネンマクフェイク ルージュ」も発売までに、たくさんの困難を乗り越えたと聞きました…。

 これまで以上に、ツヤ感と色移りのしにくさを両立させるということで苦労しました。先ほど、「ネンマクフェイク ルージュ」は唇に塗る時に透明な層とカラーの層に分かれるという話をしましたが、これは油と油が分離することで成り立っています。この分離する油の選定が非常に難しいんです。工場で量産した際に色ムラが生じたり、油を分離させすぎるとリップとしての形状が保てなくなってしまったりと、通常の5倍くらいのトライアンドエラーを繰り返しました。
これは、はじめて「ネンマクフェイク ルージュ」を工場で試作した時の釜の写真です。色が分離しているのが分かりますよね?均一な赤をつくらなくてはいけないのに、工場の大きな釜でつくると黒色が分離してしまいました。研究所のビーカーで試作するときは量が少ないため、工場で量産してみて初めてぶつかる壁もあります。この他にも、色々とたくさんの壁を乗り越えました。

 

当時はコロナ禍だったこともあり、マスクに色がつきにくいということを、お客さまへしっかりお伝えできるようにデータを取るというのも重要なポイントでした。これにも、かなり時間をかけて取り組みました。

日常から学び、感性を磨き続ける

たくさんの壁を乗り越えてきたお2人ですが、仕事をする上で心掛けていることはありますか?

藤田 商品企画を担当していると、社内のあらゆる部署の人と関わる機会が多いので、なるべく自分から積極的にコミュニケーションをとったり、メールだけではなくて電話や直接席に伺って話をしたりしています。1つの商品を発売するまでに多くの部署が関わっていて、業務自体は細分化されている部分もありますが、1つのチームとして全員で、一緒に商品を作り上げていくという意識をもって業務に取り組んでいます。
『ヴィセ』の商品企画担当としては、常に情報収集することを大切にしています。時代を先取りし、リードできるアイテムを開発するためにも、私自身が常に新しいコスメのトレンドをキャッチできるように心掛けています。もともと美容系インフルエンサーやコスメの情報をみることが好きなので、調べるというよりも日常のルーティーンになっているような気がします。

 研究員として、感性と技術力を磨くという2つを大切にしています。感性を磨く理由は、化粧品は良し悪しが数値で決まらないところがあるからです。例えば、自動車の開発であれば、耐久性や燃費など、品質の良し悪しを数字で評価しやすいと思います。しかし化粧品は、「なめらかな伸び広がり」「さっぱりとした使用感」など感性・官能の評価も多いので、我々も日々その感覚を磨かなければいけないと常に意識しています。色んな新しい体験をしたり、トレンドを追いかけたり、人の観察もしています。
技術力を磨くというのは、とにかく勉強するということです(笑)。研究者である以上、「研究所でこの分野に関しては、自分が一番。」と言えるくらい、どんな分野でもいいから突き抜けていたいと思っています。私は、入社11年目ですが、これは4年制大学でいえば約3回卒業できる年数です。ということは、この期間勉強続けた人は、専攻が3つ程度増えていてもおかしくないということです。化粧品の研究開発は、様々な学問の組み合わせなので、少しずつ自分の専攻分野を増やしていく必要があると思っています。私自身も、プログラミングやAIの勉強をして、今はある程度使いこなせるようになりました。

最後にお二人が、これからコーセーで挑戦したいことを教えてください。

 新しい化粧品のカテゴリーを生み出したいという野望があります。例えば、マスカラ下地も、誰かがマスカラの化粧もちをよくしたいと強く願い、こだわって商品化したことがはじまりだと思います。そういった、お客さまのライフスタイルに根付くような、今は存在しない新しいカテゴリーのアイテムをつくりたいです。

藤田 「ネンマクフェイク ルージュ」をはじめとして、人気アイテムも増えてきましたが、私としては「ヴィセと言えばこの商品!」と言ってもらえるような、誰もが知っている代表アイテムをつくることが目標です!そして、海外での認知も拡げていくことで、グローバルに注目されるブランドへ成長させて、存在感をさらに高めていきたいです。

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