何千何万とつくるなかの「この1個」 に込める、想いと誇り ~コーセーインダストリーズのモノづくり~ 2025.07.25

コーセーインダストリーズ株式会社では、コーセーグループのモノづくりを支える生産子会社として、「何千何万という化粧品を市場に送り出しても、お客さまが手にするのはそのうちの1個。だからこの1個を大切に」という信念で化粧品を作り続けてきました。この信念を堅持することに全社員が誇りを持っています。
2026年2月には、国内3か所目となる「南アルプス工場」が、山梨県南アルプス市に竣工予定。今一度コーセーの工場の歴史を紐解きながら、お客さまが手にとる「1個」のために、工場で働く従業員が日々どのような想いでモノづくりに向き合っているのかを深掘ります。

 

写真左:コーセーインダストリーズ(株) 管理本部 堀口 絵里 (ほりぐち えり)
兵庫県出身。2006年、コーセーに入社。生産部に配属されたのち、狭山事業所にて生産設備・量産準備に長年携わる。南アルプス工場稼働に向けて発足したプロジェクトには2021年より参画。以来、「南アルプス工場準備室」のメンバーとして、現業務と並行しながら新工場の構想や構築に従事している。

写真右:(株)コーセー 生産部生産技術室 兼 コーセーインダストリーズ(株)管理本部 吉村 祐治 (よしむら ゆうじ)
福井県出身。1992年、コーセーに入社。狭山事業所にて、製造をはじめ、生産、設備、量産準備の業務に携わる。2017年、群馬工場に新棟ができたタイミングで狭山から群馬へ異動し、新設された課の責任者として新棟立ち上げに携わった。現在は狭山事業所にて、外注・内作の充填仕上げ系量産準備業務の責任者として従事している。

コーセー発展の歴史は工場建設の歴史

―コーセーの生産部門としては創業以来長い歴史があります。まずは、その成り立ちについて教えていただけますか。

 吉村 コーセーの工場の始まりは創業と同時の1946年。創業者の小林孝三郎が東京都北区のアパートを改装した志茂町工場からスタートしました。当時の主力商品は「ポマード」と「クリーム」だったそうです。その翌年の1947年9月には豊島第1工場を建設し、11月には新たに用地を取得して、「粉白粉」を製造する豊島第2工場ができました。業績が急激に伸びたことから、1952年には当時の最新鋭製造機を備えた栄町工場へと移行。栄町工場は後に東京工場となり、1975年まで生産活動を続けました。

豊島工場の様子

現在も主力工場として稼働している狭山工場ができたのは1964年。日本一、世界一を目指すコーセーにとって、それにふさわしい場を作りたいという創業者の想いと、「化粧品は水が命」という考え元に、硬度が低く、化粧品の製造に適した水を保有する埼玉県狭山市に建設しました。1979年にはさらなる生産体制の強化を図るため、良質な水が採取できる群馬県伊勢崎市に群馬工場を建設。さらに、2017年には新生産棟を建設し、生産ラインの自動化など充実した設備を保有する当社のマザー工場として、現在、稼働中です。いずれの工場も、コーセーを発展させるため、常に20年後、30年後の当社の姿を見据えて建設しているのです。

コーセーインダストリーズ株式会社は2016年に発足し、生産を担う子会社として独立しました。現在は、狭山工場、群馬工場に加え、管理本部とプラスチック成型などを行うマテリアル事業室で構成されています。障がいのある人の雇用促進や安定を目的とした特例子会社である株式会社アドバンスや一部ブランドの製造販売元である株式会社コスメラボはコーセーインダストリーズではありませんが、生産を担うグループ会社です。

拠点ごとの特長を生かしたモノづくりの推進

― 国内の生産拠点である狭山工場、群馬工場では、それぞれの特長を生かしたモノづくりを進めていると聞きます。建設中の南アルプス工場も含め、具体的な役割や違いを伺えますか。

堀口 狭山工場は、近隣にある株式会社アドバンスとともに、「人と技の輝く拠点」が特長です。東京都内にある本社や研究所、各工場へのアクセスが良く、その地の利を生かした情報拠点として、また多様な人材が活躍できる拠点として、メイク製品を中心に生産しています。

狭山工場

吉村 群馬工場は、「世界に羽ばたくコーセーへ」として、スキンケア製品から一部メイク製品まで幅広いカテゴリの化粧品を生産できる体制を所有しており、グローバル市場のニーズに応えられる全方位的な生産体制を実現するマザー拠点です。

群馬工場

堀口 そして建設中の南アルプス工場ですが、豊かな水資源と緑豊かで恵まれた立地を活かした「環境共存型の未来工場」がコンセプトです。水をはじめとする自然の恵みと自然由来のエネルギーを活用しながら、スキンケア製品を中心に生産をする予定です。「美しい知恵 人へ、地球へ。」というコーセーの企業メッセージに基づいて、「人」と「地球」の双方に向き合い、サステナブルな要素を取り入れた工場として整備していきます。

何千何万とつくるなかの「この1個」

― コーセーインダストリーズでは「何千何万という化粧品を市場に送り出しても、お客さまが手にするのはそのうちの1個。だからこの1個を大切に」という信念で化粧品を作り続けています。この信念が生まれた背景を教えてください。

吉村 これはコーセーインダストリーズが創業した2016年に出来たものではなく、コーセーが創業した1946年当時から伝えられ続けている言葉だと聞いています。創業者は「理想の化粧品」のため品質へのこだわりを強く持ち、高品質な原料を手に入れ、研究や生産の充実と体制の確立に力を入れていました。「最高よりも最良を」という創業者の言葉がありますが、これはメーカー本位の品質追求をいさめ、お客さまにとって「最良」の品質を目指しなさいという教えです。今では、「何千何万」を超えて「何億」という化粧品をつくっていますが、この考え方は変わりません。

堀口 大きなタンクで化粧品を製造して、ベルトコンベアにいくつもの化粧品が流れてくるのを毎日目にしていると、つい忘れてしまいがちですが、お客さまが購入してくださるのは、出来上がった化粧品のうちの1個です。ですから、この1個をお客さまが手に取ったときにどう感じるか、納得していただけるかを常に自問自答し、工場のどの役割を担う従業員であっても、お客さま目線を持ち続けることを意識しています。

吉村 「お客さまに安全で安心してご使用いただくため、品質を向上させるためには何をすべきか」「従業員が安全・健康に、高品質な化粧品を作り続けるためには何をすべきか」「地球環境負荷を軽減するためには何をすべきか」…継続的に問い続けてきた精神がコーセーの品質を支えており、すべては優れた品質の化粧品をお客さまに届けたいという想いがベースになっています。皆、一歩外に出ればお客さまの立場ですから「こんなの自分だったら嫌だな」と感じることは共有し、雇用形態に関わらず、お客さまに使っていただくものを作っているという認識を皆共通して持っています。

一人ひとりの努力がお客さま満足につながる

― ご自身が生産業務を行っていく中で、『何千何万とつくるなかの「この1個」』のために取り組んだことや工夫は何でしょうか?

堀口 当社のハイプレステージブランド『コスメデコルテ』に「アイグロウ ジェム」というアイカラーがあります。すでに何度かリニューアルを経ているロングセラーアイテムですが、2016年に発売した初代の具現化には非常に苦労した記憶があります。「アイグロウ ジェム」は、既存製品にはない、“ぷにぷに”とした感触を持つアイカラーです。すべてが新しいコンセプトのアイカラーで、表面に光沢をつけながら、ドーム形状に充填・成型するという非常に難しい技術を必要とするものでした。当然、従来の充填機では対応できません。そこで、新しい充填機の導入を検討しつつ、ドーム状に成型する方法は自分たちで考え、装置そのものを開発したんです。努力の末、見事に、理想通りの成型に成功することができました。

お客さま第一で考えているのは、コーセーグループのどの部門にいるメンバーも同じです。お客さまが「アイグロウ ジェム」の蓋を開け、使うところまでの感動を与えられる商品を作るために、企画・開発・研究・生産部・資材設計・デザインなど、多くの部門・スタッフが特に一丸となった商品だったと思います。生産を担う工場としては、安定した品質の上でしっかりと企画を具現化していかなくてはいけない、その責任感で「成型装置の開発から行う」というこれまでの延長線上にはない手段で成し遂げました。皆の努力があったからこそ、商品の良さがお客さまに伝わり、今でもリピートの多いロングセラーになったのだと自負しています。

もうひとつお伝えしたいことがあります。アイカラーやチーク等、粉をプレスして樹脂皿にはめこむ商品も数多く生産していますが、こういった商品は充填する際にどうしても樹脂皿の縁に粉が飛び散ってしまいます。特に樹脂皿が黒いと、余計にそれが目立ちます。コーセーインダストリーズでは、お客さまが商品を手にしたときに気持ちよく使っていただくために、実は、1枚1枚、手作業で樹脂皿を拭いた上で梱包しているものもあります。工場の自動化により、機械で生産を行う部分は多いのですが、お客さまが手にする1個のために、必ずお客さまと同じ人の目で確認しながら、大切に製造しています。

伝承する高い技術力と品質第一の精神

― コーセーインダストリーズの強みは何だと思いますか?誇りに思っていることを教えてください。

吉村 コーセーインダストリーズには、化粧品の容器や外箱の製作を行っている部門があります。お客さまが化粧品を購入される際、中身はもちろんですが、パッケージも重視されます。そのブランドの世界観を発信する要素としても、パッケージは非常に重要です。「入れ物から中身まで」を一貫して形にできるのは、当社の大きな強みだと思っています。

なかでもプラスチックの成型を担当するマテリアル事業室では、プラスチックの繊細なカッティングをしたり、リサイクル素材をプラスチックに混ぜ込んで化粧品容器に仕上げたりと、非常に難しい手法ではありますが、それを実現できる技術を持ち合わせています。先日、「Red Dot Award」のプロダクトデザイン部門において 「雪肌精BLUE」が最高位の「Best of the Best」を初受賞しましたが、この商品の蓋は、このマテリアル事業室で技術開発、生産を行いました。『雪肌精』の原料として使用しているハトムギエキスを製造する過程で発生する「ハトムギのもみ殻」を入れ込み、瓦型の特徴的なデザインに仕上げたものになります。この技術はとても難しくてチャレンジングだったのですが、具現化できたのは当社が保有する高い技術力があってこそと自負しています。

堀口 また、南アルプス工場は水資源の循環をテーマに、環境にやさしい工場として整備中で、利用する水は「汲み上げたときも、流すときも、綺麗な水」となるような設計をしています。水を大事にすることは今に始まったことではありません。狭山工場や群馬工場でも何年も前から、水利用の効率化、水質管理など、環境保全に取り組んでいます。こういった取り組みも当社らしさであり、誇りです。

吉村 それと最後に、品質を何より第一に考えていること。当社は1980年に、化粧品業界で初めて「デミング賞 事業所表彰」を受賞した歴史があります。これは、工業製品の品質管理が優秀な企業、品質管理に功績のあった個人に与えられる、“品質管理活動のノーベル賞”とも言われる最高ランクの賞です。品質管理活動を経て培われた、この「品質第一」の精神は「品質は工程でつくりこむ」というモノづくりの基本として現場に根付いています。さらに工場での業務にはあらゆる工程(原料や材料の受け入れ、製造、充填・仕上げ、出荷)のチェック・検査が入っており、それらのチェック機能をクリアしたものだけが次の工程に進めるという仕組みを構築しています。

新たな拠点に向けて

― 2026年2月には南アルプス工場が竣工します。どのような工場を目指したいですか?

堀口 南アルプス工場においても『何千何万とつくるなかの「この1個」』の化粧品をつくることは変わりません。これまで当社に受け継がれてきたモノづくりの考え方を踏まえつつ、さらに安定品質に向けた仕組みづくりを、生産にかかわる設備の側面からもアプローチしていきます。私がモノづくりの現場において痛感することは、誰かがきっちり品質を作りこめばよいというわけでなく、関わる人すべての目や手を通じて、品質を作りこむことが重要だということです。自分自身においても、そのための努力を怠らぬよう、精進していきたいと思います。

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