「“かわいい”に恋するすべてのひとに。」~20周年を迎える『JILL STUART Beauty』にかける想い~ 2025.08.29

2025年8月31日 『JILL STUART Beauty』は、ブランド誕生20周年を迎えます。ブランドデビュー以来、“かわいい”を追求したブランディングで多くのお客さまの心をつかんできました。また、商品の包装や容器のデザインなどを気に入って商品を購入する“パケ買い”コスメブランドの先駆けになったブランドでもあり、今ではその独自のデザイン性がブランドの象徴となっています。今回は、『JILL STUART Beauty』の商品デザインが、どのように生まれたのか、誕生からこれまでの想い、そしてこれからの『JILL STUART Beauty』について、デビュー当時からブランドに携わる、商品デザイン部 クリエイティブディレクターの益田 あけみさんに、話を聞きました。
写真:商品デザイン部 デザイン室 クリエイティブディレクター 益田 あけみ(ますだ あけみ)
1990年、パッケージデザイナーとして入社。1992年発売の多重層リポソームを採用した保湿美容液「コスメデコルテ モイスチュアリポソーム」や、同年に発売した、食事をしても口紅の色が落ちない口紅コート「リップジェルマジック」など、入社以来様々なブランドの商品デザインを担当。2004年に『JILL STUART Beauty』推進プロジェクトに参加し、ブランド立ち上げ当初から、20年間商品デザイン及びディレクションを担当している。
『JILL STUART Beauty』の誕生
―2005年にブランドデビューした『JILL STUART Beauty』。新しいブランドが誕生するまでの経緯を教えてください。
益田 2004年に入ったころ、当時のデザイン室に在籍していた数名が商品デザイン部の部長に呼ばれ、『JILL STUART』のイメージをつかむため、化粧品デザインに落とし込んだラフスケッチを作成するように言われました。一方で、当時の小林保清社長からは、ブランドに関するヒアリングもありました。その頃は、まさか『JILL STUART』の化粧品をコーセーで担うことになるなんて思ってもいませんでした。のちのち聞くと、ジルさんは、幼いころ彼女の母親の友人から香油とメイク用品をプレゼントされたことがきっかけで、香水作りに熱中していたこともあるような、大の化粧品好きだったそうです。その当時から彼女は、クリスマスには、その香水を小瓶に入れてリボンを付けたり、食紅で色を付けたり、フレグランスが入った小さな小瓶を何百個も集めていたという話もあります。そんなジルさんは、化粧品を作ることが長年の夢だったそうで、コーセーの化粧品を気に入っていたというのがきっかけで当社と一緒に化粧品を作りたいと考えてくださっていたようです。
―『JILL STUART Beauty』をデビューさせるにあたり、社内で「ジル・スチュアート・プロジェクト(以下、JSP)」という若手の女性が集まったプロジェクトが発足したと伺いました。このプロジェクトでは、具体的にどのようなことが話し合われたのですか?
益田 プロジェクトは、企画・宣伝・開発・研究・教育・営業・デザインなどの各部署の若手女性社員が集まってチームを組みました。デザイン部門からは、現在もデザイン室で活躍している二タ月麗子さんと私、そしてもう1人の3名で参加しました。JSPでは、最初にブランドターゲットである『JILL STUART』が大好きな「JILL Girl」のペルソナ設定や、デビュー時のプロモーション・キット・イベントなどについて各自の提案を持ち寄って話し合い、その後は店舗デザインなどについても意見を出し合いました。プロジェクトにおいては、常に従来の枠にとらわれず、ターゲットとなるお客さまの感性に寄り添うことを大切にしてきました。JSPでは、通常ではコミュニケーションを取る機会があまりない他部門のメンバーと一緒に、それぞれの業務の範囲を超えて話し合うことで、新しい発見や当初は想像もしていなかった幅広い意見を取り入れることができました。化粧品業界の中でも、異彩を放つ独自の世界観を持つブランドへと成長できた理由が、もしかしたらここにあるのかもしれません。
『JILL STUART Beauty』の世界観が生み出されるまで
―『JILL STUART Beauty』のデザインの指針を決めていく際、ジル氏本人ともデザインの方向性についてディスカッションされたと聞きました。実際に、ジル氏とはどのような話し合いが行われたのですか?
益田 最初のミーティングの際にジルさんから、ヴィンテージなコスメアイテム、イメージしているコスメのデザインなど、彼女の世界観が詰め込まれた「ムードボード」が提示されました。ファッションブランドである『JILL STUART』は有名だったので、その資料だけでもイメージは理解できたのですが、ファッションの世界はシーズンごとに新しいトレンドを生み出すため、テイストがかなり移り変わっていきます。化粧品の場合は、限定品を除くと、同じ商品を何年も継続して販売することもあり、ファッションよりも、シーズンに合わせることが難しいため、商品デザインのイメージは、ジルさん本人の「ムードボード」をもとに、インスピレーションソースを考えることにしました。
そこでまず、彼女はどんなデザインが好きなのか、どのような化粧品を作りたいのかを探るため、思いつくまま好きなワードを上げてもらい、イメージワードとしてまとめました。今でもそのまま使われているブランドコンセプトの“イノセント&セクシー”。『JILL STUART Beauty』のデザインの軸となる、少女と大人、ヴィンテージとモダンなど、全体に2面性が隠されているデザインや、ブランドカラーのランジェリーピンク、ヴィンテージ、クリスタル、ラインストーン、ダイヤモンド、アラベスク模様などについてもこの時のワードが元になっています。年月が経過しても基本的なスタイルは変わることがなく、全ての原点はここにあるのでデザインイメージに迷った時などは、いつもここを振り返るようにしています。
―ジル氏の「ムードボード」や想いを受けて、コーセーとして『JILL STUART Beauty』らしさをどのようにデザインへと落とし込んでいったのでしょうか?
益田 ジルさんからもらったイメージを持ち帰り、デザイナー3人で考えたのが、“現代のお姫様”。当時の上司からも好きなように考えていこうと言われていたので、「みんなが思わずびっくりするようなデザインを作ろう!」と各々デザインを考えていきました。商品デザインのコンセプトは、“ヴィンテージ&モダン”にしました。モダンなファッションの人がフリルのついたウェディングドレスに憧れたり、実は寝室がガーリーだったり。普段ジュエリーには興味がない人でも、ダイヤモンドを見ると夢中になったり・・・。“ヴィンテージ&モダン”と“イノセント&セクシー”など、様々な二面性がデザインにも込められています。そして、商品を使う時の驚きやハッピー感、ワクワクするようなアイデアを商品にたくさん込めています。「持っているだけで嬉しくなる」そして、「ブラシなどの小道具が使いやすく機能的にも優れている」そのような二面性もデザインのこだわりです。
―その後、ジル氏に『JILL STUART Beauty』のデザインをお披露目した際は、どのような反応だったのですか?
益田 出来上がったデザインはニューヨークにあるジルさんのオフィスでお見せしました。彼女にお会いするのは2回目で、はじめはジルさんも半信半疑で緊張気味な様子でしたが、提案したデザインが期待していた以上の仕上がりだったようで、商品模型を見た途端に「素敵!!」との一言があがり、「想像していたデザインよりもずっと素敵!」「このリップ、私のコレクションしているヴィンテージの香水ボトルのイメージだわ!」とすぐに彼女のコレクションを持ってきてくれたり、大喜びしてくれました。その時が、ジルさんが『JILL STUART Beauty』のデザインに対して信頼を寄せてくれるようになった瞬間だと感じました。
『JILL STUART Beauty』のモノづくり
―『JILL STUART Beauty』デビュー時の印象的なエピソードを教えてください。
益田 ブランドをデビューさせる際のデザイン決裁で、社長から「すべてにこだわって作りなさい」とコメントをもらいました。それが、『JILL STUART Beauty』のこだわりの始まりです。『JILL STUART Beauty』の化粧品のデザインは、細かいカットや装飾が施されているデザインが多く、従来の粘土(クレイ)による手作業での造形作業では造形が不可能だったので、コーセーが業界に先駆けて導入していたコンピュータによる3Dモデリングと3Dプリンター(石膏)を駆使して進めていきました。ジルさんも、とにかくハッピーになるようなコスメがいい、とにかくみんながハッピーにならなきゃと言って、デザインの判断基準は、“かわいい”か“ハッピー”か、のような感じで、見て・驚いて・使ってハッピーになるデザインを採用するというような感じで進んでいきました。社内でデザインのアンケートを取るなど、とにかく全社をあげて“かわいい”を追及していました。
―フレグランスも、立体的でかわいいデザインが多いなと感じます。フレグランスのデザインについても教えてください。
益田 実は、『JILL STUART Beauty』が誕生する前から、ジルさん自身でフレグランスのデザインを考案するほど、彼女にとってフレグランスは大切なカテゴリーでした。『JILL STUART Beauty』で発売した一番初めのフレグランスは、ブランドデビュー1年後の2006年。このフレグランスデザインは、彼女のオフィスで彼女自身が収集していたヴィンテージのフレグランスやコスメ、靴などのコレクション、時には、ニューヨークのオフィス近くの建築などの装飾や意匠からもインスパイアされました。2007年に発売したフレグランス「ジルバイ オードトワレ」には、『JILL STUART Beauty』のブランドアイコンである「ランジェリーピンク」「ヴィンテージ」「クリスタル」「ラインストーン」「ダイヤモンド」「アラベスク模様」など、全ての要素を詰めたデザインを制作することができ、この商品は今でも店頭で販売していて長くお客さまに愛されている商品の一つです。
―同じフレグランスであっても、時代や価値観の変化とともに、デザインや形状に変化が生まれることはあるのでしょうか?
益田 はい、2006年発売の「ジルバイ ジルスチュアート オード トワレ」から、2011年に発売した「ヴァニラ ラスト オード パルファン」までは背の低い形状を『JILL STUART Beauty』のフレグランスの特徴にしていました。しかし、その後これまでのフレグランスのデザインを意識せずに全く新しいデ
ザインに変化させてほしいという依頼を企画からもらいました。この時もですが、デザインに迷った時には必ず原点に返り、ニューヨークでジルさんに見せてもらったヴィンテージコレクションを思い出すようにしています。そして、2014年には「クリスタルブルーム オードパルファン」という、一目見た時にフローラルのフレグランスだとわかる、香りのイメージを凝縮したデザインを考案することができました。「クリスタルブルーム」のデザインでは、商品をより輝かせるために、社内の3Dエンジニアと協力して3D技術を駆使しました。コンパクトやボトルに使われる透明素材が美しく輝くよう、「ダイヤモンドのブリリアントカット」や「クリスタルガラスのカット」を研究し、3Dモデルで検証を重ねました。特に、見る人がハッピーな気持ちになれるよう、一番キラキラ見えるカットの角度や形状を何度も試作・調整したことが印象に残っています。―『JILL STUART Beauty』の化粧品は細部までこだわりが詰まっているのですね。そんな『JILL STUART Beauty』の化粧品をデザインする上で大変なことはなんですか?
益田 そうですね、「担当者を常にびっくりさせないといけないこと」です。デザインの打ち合わせの時にスケッチや模型をテーブルに並べるんですが、企画担当者が部屋に入るなり「キャーッ!かわいい〜っ!」と声をあげてくれることがしょっちゅうあります。その第一声があるかないかは、お客さまに喜んでいただけるかどうかの判断基準にもなっています。『JILL STUART Beauty』の化粧品は、ひとつひとつ、形にも違いを持たせていて、毎日違うものを使う楽しさを感じていただけるように、担当するデザイナーみんなが工夫を凝らしています。毎回、デザインのスケッチを企画の人に見せて「キャー!」っと喜んでもらえるような驚きのあるアイデアを提案しなきゃいけないことが大変ですね(笑)
化粧品デザインへの想い
―化粧品をデザインするうえで、どのような思いやこだわりを大切にされていますか?これまで手がけてこられた商品の中に込めた、益田さんご自身の考えや想いを教えてください。
益田 一言にまとめると「商品を手に取った方が幸せな気持ちになって欲しい。」ですね、それは『JILL STUART Beauty』に限らず他のどんな商品でも基本的には変わりません。特に、『JILL STUART Beauty』の化粧品をデザインするときは、「持っているだけで幸せになれる」「見たことがないアイデア」「簡単で使いやすい」「メイク時間が楽しくなる」「メイクしている姿もかわいい」その全てを叶えることを常に目指しています。
例えば、「アイブロウパウダー」の企画が来た時には「化粧品の中では目立つ存在ではないアイブロウパウダーを、ギフトに選ばれて常に持ち運びたくなる製品にできないか?」をテーマにして、スライドケース仕様のコンパクトを提案しました。蓋全体を鏡にして、簡単にスライドするだけで開けることができ、閉めると携帯用のミラーとして使える。そして、ブラシを二つ折りにすることで、コンパクトに収納できて、使う時は片手で開けて長いブラシになって使いやすい。しかも、ブラシも透明なデザインにして、メイクする姿のかわいらしさまで考えて具現化しました。この商品は、初代から少しずつデザインを変化させてはいますが、12年後の今でも「ブルームニュアンス ブロウパレット」として『JILL STUART Beauty』を代表する商品の一つです。
20周年を迎える『JILL STUART Beauty』
―この20年間1番近くで『JILL STUART Beauty』を見てきた益田さんには、ブランドが歩んできた20年はどのように見えていますか?
益田 ブランドコンセプトや化粧品の「使いやすさ」「見た目のかわいさ」「ギフトになる」というデザイン面は時代が変化しても変わらない部分ですが、徐々に装飾的な要素を増やしたりしています。2019年ごろグローバル戦略の重要なブランドとして位置付けられると、反対に、デビュー当時の比較的シンプルなデザインに戻すような動きをしたこともあります。しかし、『JILL STUART Beauty』をご愛用いただいているお客さまに尋ねてみると、彫刻などの装飾にブランドならではの価値を感じているお客さまが多くいらっしゃったことが分かり、デコラティブなデザインを増やしました。そのように、一本の芯はぶらさずに持ちながらも、時代の流れやトレンド、そしてお客さまのニーズに耳を傾け、少しずつ試行錯誤を重ねながらデザインを考えています。
―益田さんが商品のデザインをするうえで大切にしていることを教えてください。
益田 企画からプレゼンテーションされた商品概要に、+αデザイナーのアイデアを付け加えて、唯一無二のオリジナリティのある製品にアップデートすることです。商品を受け取った人に、幸せになっていただきたい。デザインを作っている時に自分も“ワクワク楽しく”なるモノづくり、商品に「かわいいわよ」と語りかけると、モノがキラキラしてくるように感じる。作っている時のワクワクする幸せな気持ちが商品に込められて、それがお客さまに伝わることを願ってデザイン一つひとつを考えています。
―これからチャレンジしたいこと、『JILL STUART Beauty』に残していきたいことを教えてください。
益田 2022年に『JILL STUART Beauty』のブランドストーリーが「すべては女の子の“かわいい”のために」から「“かわいい”に恋するすべてのひとに」へと変化したように、今後は女性に限らず、すべての“かわいい”が好きな方たちに『JILL STUART Beauty』の化粧品で幸せになっていただきたいと考えています。そして、世界中のお客さまから「“かわいい”No.1は、『JILL STUART Beauty』」と言われる存在でありたいです。『JILL STUART Beauty』がお客さまにご支持いただいているのは、見た目の可愛らしさだけではない、外観も中身もコーセーの高い品質を保っていることが第一にあると考えています。『JILL STUART Beauty』は今年で20周年。ハイブランドのデザイナーがアーカイブを踏まえつつ、新たな提案でブランドを時代に合わせて進化させるように、一過性で話題になるモノづくりではなく、これからも長い目で見た一貫性のあるブランドづくりをしていくこと。これからも、常にお客さまに「びっくり」していただけるように商品デザインを考え、ここから20年後もさらに成長し続けるように、この想いを次の世代にも伝えていきたいですね。
最後に、ブランドデビュー当時、益田さんと一緒に『JILL STUART Beauty』のデザインを制作された二タ月 麗子さんにブランド立ち上げの際の思い出や現在の 『JILL STUART Beauty』への想いを聞きました。
【商品デザイン部 デザイン室 二タ月 麗子】
入社間もなくブランド立ち上げメンバーとなり、化粧品のモノづくりの方法を知らない中「ジルさんの思いを形にしたい!唯一無二の“かわいい”デザインを作りたい!」という一心で、何枚も何枚もスケッチを描きました。彼女のヴィンテージコレクションや、化粧品への熱い想いを知り、様々なものからヒントを得て「コンパクト ミラー」をはじめ多くの商品デザインを制作しました。当時、上司が見せてくれたペットボトルの底が綺麗なクリスタルのような面で、気がつかない場所にもデザインのヒントがあると教わりました。時には企画担当とぶつかりながらも、皆の想いを一つにして「最終的にはこれだ!」というデザインを具現化したことは貴重な経験でした。これからも、ジルさんの想いを継承しながら、お客さまにワクワク・キラキラした気持ちを与え続けてほしいです。