~メイクの力でアスリートの挑戦と輝きを支える~ コーセーのスポーツメイク 2025.10.09

コーセーは、コーポレートメッセージに「美しい知恵 人へ、地球へ。」を掲げ、美を通じて人びとに夢や希望を届けるとともに一人ひとりの幸せな生活をサポートしたいと考えています。その一環として、健康への意識や関心が高まり、QOL(生活の質)やウェルビーイングの向上につながるよう、各種競技団体や選手個人への協賛などのスポーツ支援に取り組んでいます。
同時に、スポーツを「美」の重要な表現の場と捉え、様々な形でアスリートの挑戦を支えています。メイクという表現方法が、選手の内面にまで影響を及ぼし、最高のパフォーマンスを引き出す力となると信じ、長年にわたりスポーツメイクアップを追求してきました。アスリート一人ひとりが持つ力を最大限に引き出すために、私たちコーセーはどのような想いでメイクと向き合っているのか。コーセーのメイクアップアーティストで、スポーツメイクの第一人者とも言える石井勲に話を聞きました。

写真:㈱コーセー 美容開発部 グループマネージャー メイクアップアーティスト
石井 勲 (いしい いさお)
1999年営業として入社。その後マーケティング部門を経て、2005年にメイクアップアーティストへ転向。ポスター・雑誌撮影をはじめ、国内外において様々なイベントや美容セミナーの講師も務める一方、TVやラジオ出演など幅広く活躍。特に、“落ちないメイク”のエキスパートとして、各国のフィギュアスケート選手のメイク指導やアーティスティックスイミング日本代表のメイク監修などスポーツメイクに幅広く携わる。

コーセーのスポーツメイクのはじまり

― コーセーがスポーツメイクアップに力を入れ始めたきっかけは何ですか?

石井 当社では「スポーツするときにも美しくありたい」というニーズに応えるため、業界に先駆け1981年にスポーツ専用化粧品ブランド『スポーツビューティⓇ』を発売しました。その後、2006年に日本スケート連盟とオフィシャルパートナー契約、日本水泳連盟のアーティスティックスイミング日本代表とオフィシャルスポンサー契約を結んだことが、コーセーがアスリートへの支援を強化する大きな契機となりました。私は、そのタイミングからスポーツメイクに幅広く携わるようになりました。当時のフィギュアスケート界では、選手のメイクは自己流で専門的にメイクを教わったりするような機会もありませんでした。そこで、コーセーは「メイクもひとつの表現である」という考えのもと、2008年のNHK杯国際フィギュアスケート競技大会において初めて「メイクブース」を設置しました。選手が試合前に自由にメイクを試したり、メイクのサポートを受けられる仕組みの始まりと言えます。当時は、浅田真央さん、安藤美姫さん、鈴木明子さん、中野友加里さんといった選手たちが競い合っていた時代です。

― メイクブースを設置した時の選手の反応はいかがでしたか?

石井 実は2008年のNHK杯は大会期間中ずっとメイクブースを設置していたのですが、選手は並べられた化粧品を通り過ぎながら横目で見る程度で、メイクブースはキス&クライ用※のメイクとして、選手のコーチが使用されていました(笑)。後々選手になぜメイクブースに来なかったのか伺ったところ、「行きたかったけど、試合に集中して試合前のルーティンを重視しなさいとコーチから言われました」と、多くの選手はメイクブースに興味を持ちながらも利用を控えていたそうです。そのため、ショートやフリーなどの競技時のメイクブースの設置はやめて、最終日に行われるエキシビジョンのみにサポートすることにしました。その後、大会時のエキシビジョンや「ドリーム・オン・アイス」などのアイスショーを積み重ねることで、選手とのコミュニケーションや信頼関係が築くことが出来た結果、多くの選手がブースに立ち寄り、メイクブースは選手の憩いの場として溢れかえるほどの大盛況となりました。私はメイクだけでなく選手自身がリラックスできる空間になるように、常に笑いと笑顔が絶えない明るいメイクブースを心掛けています。ただ、とても慌ただしく時間がない時は、無言でひたすらメイクをしていますが・・・(笑)。今までで国内外、男女問わず200名近くの選手のメイクをサポートしていますが、皆さんとても素直にメイクを気に入って喜んでいただき、氷上で選手が輝く姿を見るのが最高の瞬間です。
※ キス&クライ:選手が演技を終えたあとにコーチと一緒に座り、得点が発表されるのを待つ場所のこと

スポーツメイクが目指す「崩れないこと」と「表現力を高めること」

― スポーツメイクの特徴や一般のメイクとの違いはありますか?

石井 一般的なメイクは自己表現としてメイクを楽しむことですが、スポーツメイクは『汗・水に強く崩れにくいこと」、そして『表現力を高めること」を重視しています。衣装や曲、演じるキャラクターなどの世界観に合わせ、色使いやメイクの入れ方を工夫して表現力を高め、選手が自信を持って最高のパフォーマンスを発揮できるようサポートしています。

■ フィギュアスケート:
衣装や曲、演じるイメージなど、選手一人ひとりの要望を丁寧に聞き、その魅力を最大限に引き出すメイクを一緒につくっていきます。オールコーセーブランドの中から新製品や新色を用いることも多く、フィギュアスケートのメイクは一般に取り入れやすいようなトレンドメイクの要素もあります。例えば、つけまつげが流行した時期には多くの選手が取り入れるなど、その時代を反映したメイクが中心となります。

■ アーティスティックスイミング:
水中競技であるアーティスティックスイミングでは、メイクはまず「落ちないこと」が前提になります。さらに、審査員はプールから約15メートル離れた位置で採点を行うため、遠くからでも選手の表情がはっきりと見えるよう、メイクが映える発色や立体感を重視したメイクが重要になります。当時の日本代表のコーチを務められた井村先生からは、「衣装の中で一番目に止まる色をメイクにも取り入れたい」という要望があり、その意向を反映したメイクデザインを行っています。また、チーム全員のメイクをシンクロさせることも重要になってくるため、メイク講習会では全員に並んでもらい、15メートル離れた位置からチェックし、選手ごとにメイクの強弱を調整しています。

■ D.LEAGUE:
2020年からスタートしたダンスリーグ「D.LEAGUE」では、当社のブレイクダンスチーム『KOSÉ 8ROCKS』が参戦していますが、最もクリエイティブなメイクが求められます。毎回テーマが異なり、例えばサーカスをテーマとしたときは、ピエロやライオンといった大胆なメイクをしました。チームディレクターの要望に合わせて、メイクアップアーティストメンバーが個性を引き立たせたヘア&メイクを表現し、選手のパフォーマンスを後押しする重要な役割を果たしていると感じています。

― これまでスポーツメイクを通じて、印象深かったことがあれば教えてください。

石井 3つあります。1つめは、初めてメイクブースを設置したNHK杯のエピソードです。先述した通り、メイクブースは大会期間中、選手にはほとんど利用されなかったのですが、選手として初めて来てくれたのが、当時まだ高校生だったアメリカ代表の長洲未来選手でした。メイクを終えると、彼女はニコッとした満面の笑みで喜び、最終日に直筆の感謝の手紙をいただきました。その手紙には、不慣れな日本語で「とてもキレイなメイクをしてくれて、ありがとうございました。またお願いします。」という温かい言葉が添えられ、私たちにとって、スポーツメイクアップを続けていく大きなモチベーションになりました。

2つめは、新シーズンが始まる前に新横浜KOSÉスケートセンターで毎年実施される「ドリーム・オン・アイス」のメイクです。アイスショーのため、作り込んだメイクを要望されることも多いのですが、当時ドイツ代表の男女ペアで、褐色肌の男性選手に「ピエロメイク」をして欲しいという要望をいただきました。褐色系の肌を白塗りでカバーし、赤い鼻やオーバーリップ、涙のしずく型に添わせてスパンコールのキラメキを与えるなど、4公演のメイクを日々進化させながらピエロメイクを選手と一緒に作り上げたことが楽しく印象的でした。また、他にも様々な選手がメイクを任せてくれ、例えば、鈴木明子選手のシルクドソレイユや、本郷理華選手のゾンビメイク、最近では渡辺倫果選手のアバターメイクなど、テーマに合わせて強く個性を発揮できるメイク提案は、メイクの表現者としてやりがいを感じています。

3つめは、今シーズンのアーティスティックスイミングでの出来事です。大会当日は、選手たちは自分たちでメイクをしなければならないため、事前にメイク講習会を実施してメイク指導をしています。今まで講習後は大会時にメイク確認することもできないため全て選手に委ねていましたが、今回、世界大会前に選手が仕上げたメイク写真が送られてきました。そのため、選手一人一人のメイクを細かくチェックし、「このメイクはすごく上手」、「アイラインが丸くならないようにシャープに」「キャプテンのメイクを参考に」など具体的にコメントを作成しました。その結果、さらに選手たちのモチベーションにもつながったようで、自分自身のメイクの研究や練習にも励んでくれ、今年度の世界大会では今までの中で最高のメイクに仕上げていました

美と挑戦のチカラを、すべての選手へ――広がるスポーツメイクの可能性

― スポーツメイクの効果や効用をどのように感じていますか?

石井 メイクは外見を美しくすることで、内面まで美しく前向きにできる力を持っていると思います。スポーツメイクは、そこに加え選手の「戦闘モードのスイッチ」になると感じています。実際に、アーティスティックスイミングでは水中でも全く落ちなく崩れないため、安心して演技に集中できるといった声もいただきました。私たちも一緒になって戦う気持ちでメイクに臨んでいるので、その選手が、競技を終えて、やりきった表情を見ると、涙がでるほど感動しますし、そこに携われていることに心から感謝しています。

― 近年のスポーツメイクで感じていることはありますか?

石井 ここ数年で特に感じるのは、スポーツに限らず社会全体で、メイクをする男性が非常に増えてきたことです。フィギュアスケートのメイクブースを見ても、以前はヘアセットのみで利用されることが多かったのですが、今ではメイクを希望する男性選手が増えています。また、ジュニア選手からグローバルで活躍するトップアスリートまで幅広くご相談をいただき、メイクのチカラを強く感じています。当社では、『3G(Global・Gender・Generation)』をキーワードに、ビューティが持つ新たな可能性を探り、独自の価値を創出する活動に力を注いでいます。スポーツ分野においても、メイクのチカラで、性別や年齢に関わらず世界中のアスリートの皆さんのチカラになっていきたいですし、それを見た人たちに夢や勇気を与えられるよう、選手と一緒にこれからも頑張っていきたいと思っています。

― 今後の展望について教えてください。

石井 今後、スポーツ分野におけるメイクアップをさらに広く社会に発信していきたいと考えています。コーセーの強みである「落ちないメイク」は、「安心して競技に挑める」という選手のコメントも多く、あらゆるスポーツにおいて選手の大きな力となっていると感じています。私たちはこの強みを活かし、スポーツメイクを通じてアスリートのパフォーマンスやモチベーションを下支えし、ワンチームで戦っていきます。さらにスポーツメイクがアスリートに留まることなく、スポーツを愛し、楽しむ人たちの文化となるよう、そのリードオフマンとして、コーセーは活動を続けていきます。今後、あらゆるスポーツで、コーセーの商品がみなさんの拠り所になっていければと考えています。

※KOSÉ 8ROCKSの「8」をイメージしたハンドサインのポーズ。この「8」には、競技が8名のスタメンで構成されていることに加え、数字の8を無限(∞)と見立て、「無限の可能性を秘めたチームである」という意味も込められています。

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