コーセー 企業情報サイト

株式会社コーセー（本社：東京都中央区、代表取締役社長：小林 一俊）は、心理的ストレスにより分泌されるホルモンのひとつであるアドレナリンが表皮のタイトジャンクション※1の構造の乱れや表皮の炎症を引き起こし、タイトジャンクションが担う肌のバリア能を低下させることを見出しました。また、アドレナリンによって誘発される炎症はオタネニンジン根エキスによって抑制できることを明らかにしました。
本研究成果の一部は、2022年3月に開催された第142回日本薬学会（名古屋）、及び2023年2月に開催された３１ST SKIN SCIENCE DAYS（リヨン,フランス）にて発表しています。
※1　表皮の顆粒層において、隣り合う細胞と細胞の間を隙間なく塞ぐ強固な肌バリア構造

図1　本研究の概要

研究の背景

忙しい現代人にとって心理的ストレスやそれが一因となって引き起こされる肌トラブルは、日常的に感じる悩みのひとつです。これまでにストレスによって肌バリアの機能や回復力が低下することが報告されており、肌バリアの乱れは乾燥や肌あれ、痒みなどの症状を引き起こすことから、さらなるストレスの引き金にもなりかねません。そこでこの負のループを断ち切るため、ストレスにより分泌されるホルモンであるアドレナリンと肌バリアにとって重要なタイトジャンクションの関係に着目して、ストレスが肌バリア能を低下させるメカニズムの解明に取り組みました。

アドレナリンによりタイトジャンクションのバリア能が低下することを発見

図2　アドレナリンによるタイトジャンクションの構造変化

図3　アドレナリンの肌バリア能への影響

タイトジャンクションは表皮の顆粒層において、隣り合う細胞と細胞の間を隙間なく塞ぐ強固な肌バリア構造です。表皮細胞をタイルに例えると、タイトジャンクションはタイルとタイルの間を埋めて目地のように接着する役割をしており、強固なタイトジャンクションバリアが形成されていれば、外部からの異物の侵入や、肌内部からの水分蒸散を防ぐことができます。そこでヒトの表皮を実験的に再現した3次元表皮モデルにアドレナリンを添加して、タイトジャンクションや肌バリア能への影響を検証しました。その結果、アドレナリンの添加によりタイトジャンクションの像が不明瞭になり、細胞同士の接着に乱れが生じている可能性が示されました（図2）。また、表皮モデルのバリア能を表す電気抵抗値の低下に加え、タイトジャンクションの主要な構成タンパク質であるオクルーディンの遺伝子発現量の低下も認められました（図3）。このことから、アドレナリンはタイトジャンクションの形成不良を介して肌バリア能を低下させることが明らかになりました。

アドレナリンが表皮の炎症を引き起こすことを確認

図4　アドレナリンによる炎症誘導作用

一般に炎症によってタイトジャンクションバリアが低下することが知られていることから、アドレナリンが表皮の炎症に与える影響を検証しました。その結果、アドレナリンを添加した表皮細胞における、炎症性因子IL-6の増加が認められました（図4）。このことから、アドレナリンは表皮において炎症を誘発し、タイトジャンクションバリアをさらに低下させる一因となると考えられます。

オタネニンジン根エキスがアドレナリンによる炎症を抑制することを発見

図5　オタネニンジン根エキスによる炎症抑制効果

オタネニンジン根エキスは古くから疲労回復などに有効な生薬として用いられ、根には多くの有用成分が豊富に含まれています。そこで、このエキスのアドレナリンによって起きる炎症に対する効果を検証するため、同エキスとアドレナリンを加えた表皮細胞の炎症性因子IL-6の遺伝子発現量を解析しました。その結果、オタネニンジン根エキスを添加した表皮細胞では未添加の細胞よりもIL-6の発現量が低下しており、同エキスはアドレナリンによる炎症を抑制する効果をもつことが見出されました（図5）。

今後の展望

本研究から、心理的ストレスに伴う肌トラブルにはアドレナリンによる炎症と表皮タイトジャンクションのバリア低下がその原因の一端になっている可能性が示されました。さらに、オタネニンジン根エキスはアドレナリンによる炎症を抑制することから、ストレスによる肌トラブルを防ぐうえで有用な素材であると考えられます。
本研究の知見は今後のスキンケア製品に応用していきます。また、ストレスによって起きる肌トラブルのメカニズムのさらなる解明や、心身ともに健やかになれるウェルビーイングを視野に入れた研究を続けることで、お客さまの肌悩みやQOLの向上に応えることのできる製品・サービスの提供に繋げてまいります。