研究開発 ヒトの口唇周辺を再現した三次元口唇モデルを開発 化粧品成分や製品の有効性・安全性評価などに活用 2023.06.15 リリース全文 [ PDF / 477KB ]
株式会社コーセー(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林 一俊)は新潟大学大学院医歯学総合研究科(歯学部) 泉 健次教授らとの共同研究により、口腔粘膜から唇と周辺皮膚までのヒトの口唇を細胞培養により再現した三次元口唇モデルを開発しました。これにより、これまで通常の皮膚や口腔粘膜のモデルでの検証に留まっていた、化粧品成分や製品の有効性・安全性評価などを、より実際の口唇に近い環境で検証することが可能となります。本研究成果の一部は、2023年6月に学術論文雑誌「Histochemistry and Cell Biology」にオンラインで掲載されました。
図1 開発した三次元口唇モデルの組織染色像
研究の背景
唇は顔の印象を決定づける重要な要素のひとつであり、冬場の口唇あれなど、多くの方が悩みを抱える部位でもあります。口唇は顔の皮膚と口腔粘膜の移行部位であり、角層が皮膚よりも薄くデリケートであるなど、どちらとも異なる独特な構造や性質を有しています。しかし、これまで口唇のモデルでの評価系は存在せず、新たな成分の有用性や安全性の評価には、やむなく皮膚や口腔粘膜のモデルが代用されてきました。そのため、独特な構造を再現した口唇モデルを開発し、口唇の機能解析や製剤・成分の評価に用いることは、よりよい製剤開発を進める有益なツールとなります。
本研究グループは化粧品研究に活用できる口唇モデルを目指して開発を行い、表皮と口腔粘膜上皮に由来する細胞のみを用いて、ヒトの口唇と同様の特性を持つ三次元モデルの開発に取り組みました。
唇部分を再現した三次元モデルの開発
図2 三次元口唇モデルの作製方法の概要
唇部分を再現するため、皮膚と口腔粘膜に由来する細胞を共存させる手法を採用しました。まず、仕切りを境に、皮膚と口腔粘膜に由来する細胞をそれぞれ仕切りの両側に播き、仕切りを外すことで両側から、仕切りがあった部分へ細胞を自発的に遊走(別の位置に移動すること)させました。その後、空気中で培養することで、口唇に相当する部分を作製しました(図2)。構築した口唇モデルを組織染色したところ、それぞれ実際の皮膚、口唇、口腔粘膜に類似した構造や特徴を有していることが分かりました(図1)。
口唇モデルがヒト口唇組織と同様の分化様式を有することを確認
皮膚と唇、口腔粘膜では細胞が成熟するまでの過程である細胞分化のメカニズム(分化様式)が異なることが知られていることから、作製した口唇モデルの分化様式について確認を行いました。皮膚と口腔粘膜由来の細胞において、それぞれ異なる分化様式を表すタンパク質であるKeratin 2e (KRT2)とSmall proline-rich protein 3(SPRR3)を対象に、口唇モデルの染色を行いました。その結果、KRT2は皮膚側で多く、口唇相当部で減少し、口腔粘膜側では消失していました(図3、赤色)。一方、SPRR3は口腔粘膜側で多く、口唇相当部、皮膚側に向かって減少することが確認されました(図3、緑色)。この分化様式は実際のヒトの口唇組織と類似しており、開発した口唇モデルはヒト口唇と同様の分化様式を有していることが確認できました。
以上から、今回開発した口唇モデルは実際のヒトの口唇組織と類似した構造や分化様式を有しており、口唇における化粧品成分の評価などの活用が期待できます。
図3 開発した口唇モデルとヒト口唇組織の分化様式の比較
今後の展望
本研究で開発した口唇モデルは、これまで皮膚や口腔粘膜による代替手法でしか取り組めなかった唇の基盤研究や、今後のリップケア製品や成分の開発に活用していきます。これからも口唇あれのメカニズムの解明や有用な成分の開発など、お客さまの口唇悩みに根拠をもって応えることのできる研究開発を継続していきます。
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