研究開発 真皮線維芽細胞の老化運命を調節する 遺伝子EFEMP2を特定 2023.10.17 リリース全文 [ PDF / 513KB ]
株式会社コーセー(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林 一俊)は、東京大学医科学研究所 老化再生生物学分野 難波 大輔 准教授(研究当時:東京医科歯科大学所属) との共同研究により、真皮線維芽細胞が老化方向に行くかどうかの“細胞運命”(推定分化経路)を調節する遺伝子のひとつとして EFEMP2が機能していることを明らかにしました。真皮線維芽細胞はコラーゲンやエラスチンなどの肌の構成タンパク質を産み出し、肌のハリや弾力の維持にも関わるため、本知見は肌の若返り研究における大きな一歩となります。本研究成果の一部は、2023年9月に学術論文雑誌「Experimental Dermatology」にオンライン掲載されました。
研究の背景
肌のシワやたるみといった加齢に伴う変化は多くの方が抱える肌悩みです。当社ではその老化メカニズムを解明することで、お客さまに効果的なアプローチを提供することを目指して研究を進めています。
近年では、加齢に伴って老化細胞が体内に蓄積すると、その周囲の細胞や組織をも老化させるという知見に研究者たちの注目が集っています。真皮に存在し、コラーゲンやエラスチンを産み出す線維芽細胞についても、老化細胞の蓄積によって周囲の細胞をも老化させ、その機能を低下させることは重要な研究課題となっています。この連鎖的な老化細胞の蓄積を防ぐためには、加齢によって老化細胞に変化するプロセスを分析し、老化細胞の発生を減らす手段を見つけることが有効だと考えられます。
一方、加齢による細胞変化を評価することは容易ではありません。異なる年齢の人の細胞を比較しても、遺伝的な違いはもとより、紫外線曝露の度合いや飲食習慣などの生活習慣による個人差が大きく、加齢による影響と切り分けることは難しいためです。そこで当社では、そのような影響を最小限にできる同一人物から35年以上にわたって採取した真皮線維芽細胞の系列を用い、加齢による老化細胞の過剰蓄積に対する新知見の探索を試みました。
加齢により変化する線維芽細胞の細胞運命を推定
線維芽細胞は性質の異なる複数の細胞集団からなり、加齢によって各細胞集団の状態が変化すると考えられています。当社ではここに着目し、細胞のひとつひとつの遺伝子発現を解析することが可能なシングルセルRNAシーケンスと呼ばれる技術を用い、同一人物の35年以上に渡る加齢変化が細胞集団にどのような変化を引き起こすかを解析しました。
遺伝子発現のパターンから線維芽細胞を、①増殖性の高い細胞、②細胞外マトリクス※1の産生が多い細胞、③老化細胞、④老化状態にない細胞、の4つの集団に大別しました。加齢による線維芽細胞の主だった変化としては、老化細胞の増加、増殖性の高い細胞の減少、細胞外マトリクスの産生などの機能低下、が示唆されました。例えば、36歳と72歳のときの線維芽細胞を比較すると、老化細胞の割合は約4%から約10%に増加し、増殖性の高い細胞は約15%から約4%に減少という結果が得られました(図2)。
※1 細胞外マトリクス : コラーゲンなどのタンパク質からつくられる細胞の周囲を埋める構造体
真皮線維芽細胞の老化運命を切り換える遺伝子EFEMP2を特定
遺伝子発現のパターンから擬似時間軸解析という手法を用いることにより、始点として設定した増殖性の高い細胞集団が、加齢によりどのような細胞状態の変遷を辿るのかを解析しました。その結果、老化した細胞を終点(終点1)とする経路に加え、老化状態にない細胞を終点(終点2)とする、2つの推定分化経路(細胞運命)の存在が推定されました(図1)。そこで、終点2の老化状態にない細胞に特徴的であった遺伝子EFEMP2 に着目し、その発現を抑制した際の細胞老化状態を評価しました。その結果、EFEMP2 の発現を抑制した線維芽細胞では、老化細胞の特徴を示す細胞の増加がみられ、EFEMP2 が線維芽細胞の老化運命の切り換えに関わることが明らかとなりました(図3)。なお、このEFEMP2の抑制による老化細胞の増加は、他の細胞供与者に由来する真皮線維芽細胞でも確認しています。
EFEMP2 はフィブリン-4と呼ばれる、コラーゲンやエラスチンの形成に重要なタンパク質をつくる遺伝子ですが、老化細胞との直接的な関わりは今回が初めての報告となります。
今後の展望
本研究により、加齢によって蓄積する老化細胞についての新たな知見を得ることができました。本知見はエイジングケアに有用な成分の開発などに繋げていきます。今後も美容の力で健やかで快適な生活に貢献することを目指して、老化メカニズムの解明などの若返り研究に取り組んでいきます。
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